2014/07/20

帝国の慰安婦:「強制連行こそなかったが、歴史認識がなっていない」

帝国の慰安婦

パク・ユハ教授著「帝国の慰安婦」に関する韓国人の韓国近代史専門家による書評。

「事実そのものは全く目新しくなく、むしろ失望させられた」というのは開き直りっぽくも聞こえるが、韓国近代史の専門家なら口にこそ出さないだけで、パク教授が語るような事実は誰もが知っているのだろう。

「娘や妹を安値で売り渡した父や兄、貧しく純真な女性をだまして遠い異国の戦線に連れていった業者、業者の違法行為をそそのかした里長・面長・郡守、そして何よりも、無気力で無能な男性の責任は、いつか必ず問われるべきだ。それでこそ、同じ不幸の繰り返しを防げる」とまっとうな事を言いながら、「納得できる謝罪と賠償を1次的責任を負う日本が拒否している状況で、韓国側が先に反省したら、日本に責任回避の名目を与えかねない」といった所で評者が限界を露呈する。

パク教授の「韓日共同責任論」というのは確かに少々オメデタイように聞こえる。だからといって、誰が一次責任を負うかを歴史認識の問題にしてしまう評者もどうなのか?

慰安婦:「朝鮮人責任論」のワナ

パク・ユハ著『帝国の慰安婦』

筆者には、植民地時代の文化現象に関する単独著書が5冊あり、韓国近代の専門家を自認してきた。しかし恥ずかしながら、出版から1年近くになる『帝国の慰安婦』という本の存在を知らなかった。本書を読んだのは、著者のパク・ユハ教授が「元慰安婦の名誉を傷つけた」として告訴され、公憤の対象になった最近のことだ。

資料の解釈は洗練されておらず論理的飛躍と批判すべき部分は少なくない。それでいて、本書に記された事実そのものは全く目新しくなく、むしろ失望させられた。慰安婦は日本軍が「直接」強制連行したのではなかった。日本軍は業者に慰安所の設置と運営を委託したが、そうした業者の多くは朝鮮人だった。朝鮮人慰安婦は、これらの業者によって人身売買されたり、連れ去られたりするケースがほとんどだった。アジア・太平洋全域を舞台に戦争をしていた300万人規模の日本軍が、最も後方に位置する朝鮮で、のんきに女性の強制連行をしていたりはしないだろう。

パク・ユハ教授は「戦争を起こした日本政府と違法な募集を黙認した日本軍に1次的責任を負わせるべき」という点を認めながら、法的責任を問うべき人物がいるとするなら、それは日本政府ではなく、詐欺・強制売春などの犯罪を行った業者の方だと主張している。請負業者に法的責任があるのに、それをそそのかした当事者には法的責任がない、という論理は受け入れ難い。しかし、慰安婦問題では朝鮮人も責任を避けられない、という指摘は認めざるを得ない。

娘や妹を安値で売り渡した父や兄、貧しく純真な女性をだまして遠い異国の戦線に連れていった業者、業者の違法行為をそそのかした里長・面長・郡守、そして何よりも、無気力で無能な男性の責任は、いつか必ず問われるべきだ。それでこそ、同じ不幸の繰り返しを防げる。しかし今は、問題を提起すべき時期ではないだろう。納得できる謝罪と賠償を1次的責任を負う日本が拒否している状況で、韓国側が先に反省したら、日本に責任回避の名目を与えかねないからだ。

本書を細かく読んでみると、韓日間の和解に向けたパク・ユハ教授の本心に疑う余地はない。元慰安婦を見下したり、冒涜(ぼうとく)したりする意図がなかったことも明白だ。

しかし、韓日共同責任論の提起を、慰安婦問題をめぐる両国間の対立を解決する賢明な代案とするには、1次的責任を負うべき日本についての歴史認識があまりにもずれている。

全峰寛(チョン・ボングァン)KAIST人文社会学科教授